2 12, 2003
音楽著作権をめぐる攻防、レーベルゲートは受け容れられるのか

Label Gate.bmp音楽著作権管理については、時間と裁判費用をかけて守勢に回る大手音楽レーベル・流通側と、より自由なデジタル音楽の使い勝手を求めるユーザー並びにその動きをサポートするファイルシェアリング・サービス側との激しい攻防が、90年代後半から繰り広げられてきた。その長い戦いの間に、ネットバブルが崩壊し、疲弊した IT 業界は多くの負の影響も、長期に及んだ著作権論争から受けざるを得なかった。まず、昨年末から今年初めにかけて、内外で起きた関連する出来事を、振り返ってみよう。そして、その戦いの果てに日本市場に導入され始めた、ソニー主導の「レーベルゲート」方式に基づくサービスを、ユーザー視点から検証してみる。

米国では、P2P のファイルシェアサービスを提供して最大手になったナップスターが、昨年11月末、 EasyCD Creator や Toaster など CD/DVD 書き込み製品ソフトで有名な Roxio 社に全資産を売却。日本では、P2P ファイル交換サービスがメジャーになる前に、八王子のソフト会社MMO 社が提供するファイルローグに停止命令が昨年出たあと、損害賠償の裁判で、東京地方裁判所は今年1月末、著作権の侵害にあたる、という中間判決を下した。これを受けて、訴えていた日本レコード協会は、それみたか、と言わんばかりの勝ち誇る様なプレスリリースを行っている。

ナップスター裁判が長期化したことで、著作権管理技術開発のベンチャー企業も少なからぬ影響を受けた。SDMI を提唱し、強固な著作権管理技術を開発、多くの関連特許を取得し、業界をリードする立場にあったはずのシリコンバレーのソフト開発会社、InterTrust 社は、マイクロソフトに対して特許関連の裁判を仕掛けたあと、ソニーとフィリップスに買収された。同社の資産を元に算出された買収価格は 4億5千3百万米ドル。売上は大きくなかったが、これだけの Valuation で買収されたInterTrust 社の最大の価値は、同社が保有する、著作権管理技術関連を網羅する豊富な特許群にあった。1990年の創業以来、同社は DRM (Digital Rights Management) 技術に関する多くの特許を申請、取得してきた。同社を米 NASDAQ 上場へ導いたのも、この特許の存在が大きい。DRM 特許最大手の InterTrust をソニー・フィリップスグループが買収したことによる、今後の DRM ビジネス市場全体に与える影響は極めて大きいものと考えている。

特にソニーは、こうした特許を手に入れたことなども背景に、同社の複数のハード、ソフト技術を組みあわせた音楽ソフト流通方式、レーベルゲートを展開、専用プレイヤー、NetMD などでの対応に続き、音楽 CD 用のコピー・コントロールにもこれを利用し始めた。

日本の大手レコード会社各社も、ネットでの楽曲販売や、音楽 CD の著作権管理技術としてレーベルゲート採用を表明、音楽 CD 販売の落ち込みもあって、各社の足並みがこの方式に揃いつつある。レーベル各社の様々な思惑で水面下の戦いが繰り広げられてきたが、音楽業界もまた、背水の陣となってきている証左だろう。

そこでやっと本題に入るのだが、レーベルゲートの実力を試してみることにした。まずは、最近発売され始めたレーベルゲート対応 CD の中で、中島美嘉の「愛してる」を実際に購入、使い勝手を見ることに。ともかく、試してみないことには、その価値はわからない、ということで、CD 購入。もっぱらレンタル CD 屋で最新のヒット CD を借りては PC で Ripping、MP3 に落とす、という形で著作権料の一部はちゃんと支払ってきたつもりの自分だが、そういえば音楽 CD を借りるのでは無く「買った」のは久しぶりだ。

しかし、レーベルゲートを試さざるを得ない理由もあった。ヒットチャートに並ぶ人気音楽 CD を選ぶ時にはいつも、CCCD (コピーコントロール CD)かどうかを入念に調べて、MP3 に Rip できない CCCD は避けてきたのだが、最近はかなりの部分が CCCD になってしまい、好きな音楽を Digital に落とせない、携帯 MP3 Player で聞くことが出来ない状況になってしまっていたのだ。これまでの CCCD は全く PC のハードディスクに Rip 出来ない厳しいプロテクションだったが、レーベルゲートは、最初の一回だけは ATRAC だが Ripping 出来、さらに OpenMG 対応の Player ソフトに転送が出来るという。なんだか手順の説明を読んだだけで面倒そうだが、とりあえず Rip 出来るというのは試す価値があるかな、という軽い気持ちでやってみた。

買ってきた CD を PC に入れると、まずは MAGIQLIP というレーベルゲート対応ダウンローダー兼音楽プレイヤー(試聴にも使える。)をインストールする様に促される。それを行うと、次は、CD からの ATRAC 音楽ファイルの引き出し。この間の動作は比較的速いが、段取りがいろいろあるので、軽快、とも言えない。

ちなみに MAGIQLIP は、マックには対応していない。対応ユーザーは現状 Windows 環境に制限されている。QuickTime を必須とするソフトの割には、初期の対応環境にマックが無いのは、マックユーザーとしては不満なところだろう。

MAGIQLIP プレイヤーはシンプルなインターフェースと機能で、楽曲を Windows Media Player や MusicMatch の様に様々な項目単位で View したり保存したりすることは出来ない。多くのユーザーは MAGIQLIP を試聴目的やダウンロード、携帯音楽プレーヤーで聴くための OpenMG への転送の為に使うことになるのだろう。

しばらく使って見ての、レーベルゲート方式のメリットとデメリットを整理すると、

<メリット>
・レーベルゲートを使ってのサービスには、アルバムジャケット写真や歌詞情報も含まれていて、良い。
・レーベルゲート方式の本来のメリットは、CD のコピーコントロールに利用する今回のケースよりも、ネットから直接の、1曲単位のダウンロード購入が可能となる点により感じられた。楽曲1曲で消費税込み210円と、以前と比較すると単価も下がって気軽に購入できるので、CD 単位で、無駄な曲に1000円~3000円近くを払わずに済む点は良い。(1曲100円~150円に下がると、さらに人気が出るのではないかと思われる。)
・オンライン購入時の入力項目は、最少で済む。一曲だけでも、クレジットカードで買えるマイクロペイメント対応。会員登録などは、一切必要無しでアドホックに買える。
・異なるレーベルの楽曲でも、レーベルゲートが共通インフラとして利用されるので、まとめて買物かごに入れて、まとめて複数の楽曲を購入する事が出来る。レーベルごとの支払い精算とはならないのは面倒で無くて良い。
・レンタルショップに足を運ばすに済む。

<デメリット>
・MP3 で Rip する事と比較すると、多くの煩雑な手順を踏まないと携帯端末に楽曲を導入できない。チェックイン・チェックアウトという面倒な楽曲のコピー管理の手続きを踏むことになる。(PC から、ATRAC ファイルの一曲あたり3回まで携帯音楽端末にコピー可能。)
・OpenMG 対応の端末や PDA の数がまだソニー製品やシャープ製品など、一部製品に限られる。(MAGIQLIP のプレイヤーを PC 上で試すだけなら、Windows PC があれば OK ではあるが。)
・人気のポピュラー・ソングのレーベルゲート方式を通じた販売は増えてはいるが、全体の新しい楽曲数から見るとまだごく一部。
・対応するメモリー・カードも、OpenMG 対応のメモリースティック、しか今のところは使えない。

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以上から、僕個人としては、レーベルゲートの可能性として、CD のコピーコントロールに採用された事実よりも、MAGIQLIP のインターフェースから接続して使ってみた、オンラインの楽曲販売の価格低下と利便性に興味を覚えた。

ソニー製品の Value Chain にはまっていて、OpenMG 対応携帯音楽プレーヤーか CLIE + 白メモリースティックを保有する、レンタルレコード屋でのコピーコントロール製品の増加に頭を悩ませていた人には、試してみる意味のあるサービスになりつつあるとは言えるだろう。

PC の機種変更や OS をアップグレードした際のバックアップ、レストアのツールも開発・配布しているなど、かなり考えて作られた Closed DRM System ではある。

しかし、それ以外の、MP3 の手軽さに慣れてしまった一般ユーザーにとっては、まだまだ対応製品の狭さなどから問題も多い。マスへの認知、普及には2-3年かかるのではないか。InterTrust 特許をタテに、ソニー、フィリップスグループが、音楽 CD を普及させた時の様に競合他社にもレーベルゲート技術採用をまず日本市場で迫り、その実績をもとに欧米市場に展開する、そんなビジネス・シナリオになるのだろうか。

いずれにせよ、P2P ソフト後進で、ブロードバンドの高速・常時接続環境が700万人以上に使われる様になった日本市場から、この DRM 音楽販売ビジネスは本腰が入ってくる予感がある。その事業戦略をどう評価するか、本当にこのレーベルゲートから楽曲を買うメリットを見出せるのかは、個々のユーザーの判断になる。

ただ、個人的希望としては、そこまでやるなら、一曲の価格を210円で統一する市場価格コントロールはもうやめにしてもらいたい。楽曲の流通をきちんとコントロールできる DRM システムを使うのだから、楽曲それぞれに応じた価格がつけられる柔軟な市場も、大手レーベルの努力で形成するべきだ。ネットというリアルタイムな流通ルートを通じて楽曲を購買するメリットが高まり、DRM の面倒さがありながらもそれを通じて楽曲にきちんと対価を払うユーザーを増やしたいなら、それ相応の新しいビジネス・モデルも一生懸命考えて欲しいものである。きちんとした仕組みとすばらしい音楽には、対価を払う用意のある音楽愛好家だって、多いはずだ。

Posted by minami at 2 12, 2003 12:20 AM